知らないとマズい「新リース会計基準」の基本|財務諸表へのインパクトを公認会計士が解説

いよいよ本格適用が迫る「新リース会計基準」。経理担当者として「自社の財務諸表にどんな影響があるのか」「具体的に何から準備すればいいのか」と、対応に悩んでいませんか?本記事を読めば、新リース会計基準の基本から、経理担当者が今すぐ取り組むべき実務対応のロードマップまで、その全てがわかります。結論から言うと、新基準の適用により、これまで費用処理していたオペレーティング・リースも原則として貸借対照表(BS)に「使用権資産」と「リース負債」として計上されるため、資産と負債が同額で増加し、自己資本比率などの財務指標が悪化する可能性があります。この記事では、公認会計士が新基準による財務諸表への具体的なインパクト、実務上の注意点、そして業務負担を軽減できる簡便的な取り扱いまで、専門用語をかみ砕いて網羅的に解説します。

目次

【結論】新リース会計基準で財務諸表はこう変わる

新リース会計基準の導入による最大の変更点は、これまで貸借対照表(B/S)に計上されていなかったオペレーティング・リースが、原則としてすべて資産・負債として計上される「オンバランス化」です。これにより、企業の財務諸表には大きく3つのインパクトが生じます。ここでは、その影響を結論から先に分かりやすく解説します。

資産と負債が同額増加し自己資本比率が低下する

新リース会計基準が適用されると、借手はリース契約について、将来のリース料総額を現在価値に割り引いた金額を「使用権資産」(資産)と「リース負債」(負債)として、貸借対照表(B/S)に両建てで計上する必要があります。

これまでは費用処理のみでB/Sに影響がなかったオペレーティング・リースも対象となるため、特にオフィスや店舗、複合機などを多く賃借している企業では、総資産と総負債が大幅に増加します。この現象は「バランスシートが膨らむ」と表現されます。

純資産の額は変わらない一方で総資産が増加するため、財務の健全性を示す重要な指標である「自己資本比率(純資産 ÷ 総資産)」は必然的に低下します。また、ROA(総資産利益率)の低下や負債比率の上昇といった、他の財務指標にも影響が及ぶため注意が必要です。

会計処理資産負債自己資本比率
従来の会計基準変動なし変動なし変動なし
新リース会計基準増加(使用権資産を計上)増加(リース負債を計上)低下

費用計上が前倒しになり初年度の利益を圧迫する

損益計算書(P/L)上の費用構造も大きく変わります。従来のオペレーティング・リースでは、支払リース料をリース期間にわたって定額で費用計上していました。しかし、新基準では費用が「使用権資産の減価償却費」と「リース負債に係る支払利息」の2つに分解されます。

減価償却費は定額法であれば毎年一定ですが、支払利息は負債残高の大きいリース期間の初期に多く発生し、返済が進むにつれて減少していきます。その結果、費用の合計額はリース期間の前半に厚く、後半に薄くなる「前倒し」の形になります。これにより、リース開始初年度の利益が従来の方法よりも圧迫される可能性があります。

会計処理計上される費用リース期間中の費用推移
従来の会計基準支払リース料定額
新リース会計基準減価償却費 + 支払利息初期に大きく、徐々に減少

営業キャッシュフローが改善して見える

キャッシュ・フロー計算書(C/S)上の表示区分も変更されます。従来、オペレーティング・リースのリース料支払額は、全額が「営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)」のマイナス項目として扱われていました。

新基準では、リース料の支払いを「リース負債の元本返済部分」と「利息支払部分」に分けて考えます。このうち、元本返済部分は「財務活動によるキャッシュ・フロー(財務CF)」のマイナスとして表示されます。利息支払部分は原則として営業CFのマイナスとなりますが、元本部分が営業CFから除外される影響は非常に大きいものです。

その結果、これまで営業CFを押し下げていたリース料支払額の大部分が財務CFに移動するため、見かけ上、営業CFが改善し、財務CFが悪化するように見えます。これは企業のキャッシュ創出能力が実際に向上したわけではなく、あくまで会計処理上の表示の変更である点を正しく理解しておくことが重要です。

会計処理営業CF財務CF
従来の会計基準リース料支払額(全額)がマイナス影響なし
新リース会計基準利息支払部分のみマイナス(改善して見える元本返済部分がマイナス(悪化して見える

経理担当者がやるべきこと 新リース会計基準への実務対応ロードマップ

新リース会計基準 実務対応ロードマップ 1 社内の全リース契約を洗い出す 総務・IT・営業など関連部署と連携し、 隠れたリース契約(オンバランス対象)を網羅的にリストアップ。 2 リース期間とリース料総額を算定 解約不能期間に加え、行使確実な延長オプションも考慮。 変動リース料の有無も確認して総額を確定。 3 使用権資産とリース負債を計算 割引率を用いて将来の支払額を現在価値に換算。 リース負債と使用権資産(付随費用含む)を算出。 4 会計システムや開示への対応 複雑な計算に対応するシステム導入・改修を検討。 注記情報の拡充に向け、監査法人と方針を協議。

新リース会計基準の適用は、経理部門にとって大きなプロジェクトとなります。場当たり的な対応では、決算時に混乱を招きかねません。ここでは、実務担当者が着実に準備を進めるための4つのステップをロードマップとして具体的に解説します。

まずは社内の全リース契約を洗い出す

最初のステップは、社内に存在するすべてのリース契約を網羅的に把握することです。これまでの会計処理では費用として処理していたオフバランスのオペレーティング・リースも、新基準では資産計上の対象となるため、契約の名称にとらわれず、実態で判断する必要があります。

経理部門だけで完結させず、コピー機や社用車を管理する総務部門、サーバーやPCを管理するIT部門、営業車両を管理する営業部門など、関連部署と連携して契約リストを作成しましょう。賃貸借契約書や業務委託契約書といった名称の契約の中に、実質的なリース契約が隠れている可能性があるため、注意深く精査してください。

洗い出しにあたっては、以下の項目をリストアップすると、後の作業がスムーズに進みます。

管理項目確認内容の例
契約情報契約管理番号、契約先、契約締結日、契約対象資産
契約期間契約開始日、契約終了日、解約不能期間、延長・購入オプションの有無
支払情報月額リース料、支払スケジュール、固定/変動の別、リース料以外の費用(維持管理費など)の有無
資産情報資産の種類、数量、設置場所、資産の経済的耐用年数

リース期間とリース料総額を算定する

次に、洗い出した各リース契約について、資産・負債計上の基礎となる「リース期間」と「リース料総額」を算定します。これらは単純な契約期間や支払総額とは異なる場合があるため、慎重な判断が求められます。

リース期間の算定:
リース期間は、契約上の「解約不能期間」を基礎とします。それに加えて、借手が延長オプションや購入オプションを行使することが「合理的に確実」と判断される場合、その期間も加算します。例えば、多額の費用をかけて設置した設備で、契約終了後に撤去すると事業に大きな支障が出るようなケースでは、延長オプションを行使することが「合理的に確実」と判断される可能性があります。

リース料総額の算定:
リース料総額には、固定の支払額だけでなく、指数やレート(例:消費者物価指数)に応じて変動するリース料も含まれます。一方で、契約に含まれる維持管理サービスなどの対価(非リースコンポーネント)は、原則としてリース料総額から除外する必要があります。

使用権資産とリース負債を計算する方法

リース期間とリース料総額が確定したら、いよいよ「使用権資産」と「リース負債」を計算します。ここでのポイントは、将来の支払いを現在価値に割り引くという考え方です。

1. リース負債の計算:
まず、算定したリース期間にわたる未払リース料総額を、「割引率」を用いて現在価値に割り引くことで、リース負債を計算します。割引率は、原則として貸手の計算利子率を使用しますが、それが不明な場合は、企業の追加借入利子率(同様の資産を同様の期間、同様の担保で購入するために必要となる資金の借入利率)を使用します。

2. 使用権資産の計算:
使用権資産は、上記で計算したリース負債の額を基礎として計算します。具体的には、リース負債の計上額に、敷金や仲介手数料といった付随費用などを加算して算出します。

会計システムや開示への対応を検討する

最後のステップは、算出した数値を会計処理に反映させ、財務諸表で適切に開示するための体制を整えることです。

会計システムへの対応:
新リース会計基準では、使用権資産の減価償却計算とリース負債の利息計算を毎月行う必要があり、手作業での管理は非常に煩雑です。既存の会計システムが対応できない場合は、改修や専用のリース管理システムの導入を検討する必要があります。リース契約情報の一元管理、複雑な計算の自動化、仕訳の自動生成といった機能が求められます。

開示への対応:
新基準では、財務諸表の注記情報も拡充されます。使用権資産の内訳や帳簿価額の増減、リースに関連する損益(減価償却費や支払利息)、キャッシュフロー情報など、開示が要求される項目は多岐にわたります。早い段階で監査法人と協議し、開示方針を固めておくことが重要です。

そもそも新リース会計基準とは 基本をわかりやすく解説

新リース会計基準による変化のイメージ 【従来の会計基準】 リース契約 ファイナンス・リース オペレーティング・リース オンバランス B/Sに計上 (資産・債務) オフバランス B/S計上なし (賃貸借処理) 実態が見えにくい 【新リース会計基準】 リース契約 原則すべてのリース オンバランス化 使用権資産 リース負債 財務諸表の透明性が向上 最大のポイント これまで「オフバランス」だったオペレーティング・リースも 貸借対照表(B/S)に資産・負債として計上される

2026年度から本格的に適用が開始される「新リース会計基準」。経理担当者や経営層にとって、その影響は決して小さくありません。これまで費用として処理していた多くの契約が、貸借対照表(B/S)上の資産・負債として計上されることになるためです。この章では、新リース会計基準が導入される背景や目的、具体的な適用時期、そして従来の会計処理との違いといった基本を、誰にでもわかるように解説します。

新リース会計基準の目的は財務諸表の透明性向上

新リース会計基準が導入される最大の目的は、企業の財務諸表の透明性を高め、国際的な比較可能性を確保することにあります。

従来の会計基準では、リース契約は「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2つに分類されていました。このうち、コピー機や社用車などで一般的なオペレーティング・リースは、月々のリース料を費用として計上するだけで、貸借対照表には資産や負債が計上されない「オフバランス取引」でした。

しかし、航空会社が航空機をリースしたり、小売業が店舗をリースしたりするように、企業によっては事業の根幹をなす資産をオペレーティング・リースで調達しているケースも少なくありません。このような多額のリース契約が貸借対照表に現れないと、投資家や金融機関などの利害関係者は、その企業の本当の財政状態や負債規模を正確に把握することが困難でした。

そこで、国際財務報告基準(IFRS)や米国会計基準の考え方と足並みをそろえ、原則としてすべてのリース契約を資産・負債として貸借対照表に計上(オンバランス化)することで、企業間の財務状況を正しく比較できるようにするのが、新リース会計基準の狙いなのです。

いつから適用?対象となる企業は?

新リース会計基準の適用時期と対象企業は以下の通りです。特に上場企業や大会社の経理担当者は、自社がいつから対応すべきかを正確に把握しておく必要があります。

項目内容
原則適用2026年4月1日以後に開始する事業年度の期首から
早期適用2024年4月1日以後に開始する事業年度の期首から適用可能
対象企業上場企業や会社法上の大会社など、会計監査人による監査が義務付けられている企業とその連結子会社・関連会社

中小企業については、当面の間は従来の会計処理を継続することが認められる見込みですが、取引先や金融機関への説明責任の観点から、将来的には新基準への対応が求められる可能性があります。早めに情報収集を開始しておくことが望ましいでしょう。

これまでのリース会計との違い

新リース会計基準における最大の変更点は、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区別をなくし、原則としてすべてのリースを資産・負債として計上する「使用権モデル」が採用されたことです。これにより、借り手の会計処理が大きく変わります。

これまでの会計処理との違いを、以下の表で確認してみましょう。

項目従来の会計基準(ファイナンス・リース)従来の会計基準(オペレーティング・リース)新リース会計基準
会計処理売買処理に準ずる賃貸借処理単一の「使用権モデル」
B/S計上リース資産とリース債務を計上(オンバランス)計上なし(オフバランス)使用権資産とリース負債を計上(オンバランス)
P/L計上減価償却費と支払利息支払リース料減価償却費と支払利息

この表からわかるように、最も大きなインパクトを受けるのは、これまで費用処理(オフバランス)で済んでいたオペレーティング・リースです。今後は、リース契約によって得られる「資産を使用する権利」を「使用権資産」として、「将来のリース料を支払う義務」を「リース負債」として、それぞれ貸借対照表に計上する必要が出てきます。この変更が、企業の財務指標にどのような影響を与えるのかを正しく理解することが、新基準への対応の第一歩となります。

これだけは押さえたい 新リース会計基準の重要用語

新リース会計基準の3大重要用語 関係図 将来のリース料総額 1年目の支払 2年目の支払 3年目の支払… (契約期間分続く) 割引率 現在価値へ 割り引く 貸借対照表 (B/S) 資産の部 負債の部 リース負債
未払リース料の
現在価値総額。

利息法で計算し、
支払のたびに減少。
使用権資産
資産を使用する権利。

リース負債額を基礎に
初期費用等を加算。
減価償却を行う。
減価償却費 P/Lに費用計上 支払利息 P/Lに費用計上 図解のポイント 使用権資産:借りた資産を使う権利 リース負債:将来払うお金の現在価値 割引率:将来価値を現在価値にする率

新リース会計基準を正しく理解するためには、いくつかの新しい勘定科目や専門用語を把握しておく必要があります。特に「使用権資産」「リース負債」「割引率」の3つは、会計処理の根幹をなす最重要キーワードです。これらを理解することで、新基準が財務諸表に与えるインパクトをより深く読み解くことができるようになります。ここでは、それぞれの用語の意味と会計実務上のポイントをわかりやすく解説します。

使用権資産

「使用権資産」とは、借手がリース契約に基づき、リース期間にわたって対象となる資産(リース資産)を使用する「権利」を指す、新しい資産の勘定科目です。これまでのオペレーティング・リースでは、リース料は費用として処理されるだけで、資産が計上されることはありませんでした。しかし、新リース会計基準では、原則としてすべてのリース契約がオンバランス化の対象となります。つまり、借りている資産を使う権利そのものを「使用権資産」として貸借対照表(B/S)の資産の部に計上する必要があるのです。

使用権資産は、固定資産と同様に減価償却の対象となります。原則として、リース期間にわたって定額法などの合理的な方法で償却し、減価償却費を損益計算書(P/L)に計上します。これにより、総資産が増加すると同時に、減価償却費という費用が発生することになります。

使用権資産の計上額は、後述する「リース負債」の当初測定額に、リース契約に関連して支払った付随費用(仲介手数料など)を加算して計算されます。

リース負債

「リース負債」とは、リース期間にわたって支払うべきリース料総額のうち、未払い分を現在価値に割り引いて計算した金額を指す、負債の勘定科目です。使用権資産と対になる概念で、貸借対照表(B/S)の負債の部に計上されます。これにより、これまでオフバランスだったリース契約が「資産」と「負債」の両建てで財務諸表に表示されることになります。

リース負債は、計上後、リース料を支払うたびに元本部分が返済され、減少していきます。同時に、負債残高に対して利息が発生し、これは「支払利息」として損益計算書(P/L)に計上されます。つまり、毎月のリース料支払額は、リース負債の元本返済部分と支払利息部分に分解して会計処理されるのです。この計算には利息法が用いられます。

この結果、従来のオペレーティング・リースのようにリース料が均等に費用化されるのではなく、支払利息が大きくなる契約初期の費用負担が重くなるという特徴があります。

割引率

「割引率」は、将来にわたって支払うリース料の総額を、現在の価値に換算(割り引く)するために使用される利率のことです。この割引率を用いてリース負債の金額を算定するため、どの利率を採用するかは非常に重要な実務上のポイントとなります。

使用すべき割引率には、以下の通り優先順位が定められています。

優先順位 割引率の名称 内容
1位 貸手の計算利子率(IRR) リース契約の貸手側が設定している内部収益率。借手がこの利率を容易に知ることができる場合に適用します。
2位 借手の追加借入利子率 貸手の計算利子率が不明な場合に適用します。借手が、リース資産と同等の資産を、同様の期間、同様の担保条件で借り入れるとしたら、適用されるであろう利率を指します。

実務上、貸手の計算利子率は開示されていないことがほとんどです。そのため、多くの企業では「借手の追加借入利子率」を用いてリース負債を計算することになります。この利率は、企業の信用力や市場金利などを考慮して合理的に見積もる必要があり、金融機関からの見積もり取得や、類似の借入実績を参考に算定します。割引率の設定は、リース負債および使用権資産の計上額に直接影響を与えるため、慎重な判断が求められます。

適用免除や簡便法で業務負担を軽減する方法

新リース会計基準は、原則としてすべてのリース契約に適用され、資産と負債の計上が求められます。しかし、実務上の負担を考慮し、特定のリース契約については会計処理を簡略化できる例外規定が設けられています。これらの規定を正しく理解し活用することで、経理担当者の業務負担を大幅に軽減することが可能です。ここでは、その代表的な方法である「短期リース」と「少額リース」の適用免除、そしてリース契約かサービス契約かの判断が重要になるケースについて詳しく解説します。

短期リースと少額リースの判定基準

「短期リース」または「少額リース」に該当する場合、借手は使用権資産とリース負債を計上せず、従来通り支払リース料を費用として計上する簡便な会計処理を選択できます。これにより、複雑な計算や管理業務から解放されます。それぞれの判定基準は以下の通りです。

短期リースと少額リースの判定基準
種類 主な判定基準 具体例
短期リース リース期間がリース開始日において12ヶ月以内であるリース。
(購入オプションが含まれ、その行使が合理的に確実である場合を除く)
・イベント用の機材レンタル(3日間)
・決算期応援のためのPCレンタル(2ヶ月)
少額リース 原資産(リース対象の資産)が少額であるリース。
IFRS(国際財務報告基準)では、新品状態の価額が5,000米ドル以下という目安が示されています。
・ノートPC、タブレット端末
・コピー機、複合機
・オフィス用の机や椅子

注意点として、日本の会計基準では少額リースの具体的な金額基準は明記されていません。しかし、実務上はIFRSの考え方が重要な参考となります。また、少額リースの判定は、リースしている資産そのものの価値で判断し、契約単位の金額ではない点に留意が必要です。例えば、1台30万円のPCを100台リースする契約(総額3,000万円)であっても、個々のPCが少額であるため、少額リースとして処理することが可能です。

サービス契約の取り扱い

新リース会計基準の適用対象は、あくまで「リース契約」であり、「サービス契約」は対象外です。契約書の名前に「リース」と書かれていなくても実態がリースであれば資産計上が必要ですし、逆に「賃貸借」と書かれていてもサービス契約であれば資産計上は不要です。この区別は実務において非常に重要になります。

リース契約とサービス契約を分ける最大のポイントは、「識別された資産」の使用を、顧客が「実質的に支配」しているかどうかです。

例えば、サウナ施設の検索・予約サイトを通じてサウナを1回利用する契約を考えてみましょう。この場合、利用者は特定のサウナ施設を利用しますが、その施設のどのサウナ室を使うかは他の利用者の状況にも左右され、特定のサウナ室を独占的に支配しているわけではありません。また、施設側は清掃やメンテナンスのために自由に立ち入ることができます。これは、サウナという「場」を利用するサービスを受けているに過ぎず、資産を支配しているとは言えません。したがって、これは「サービス契約」に該当し、新リース会計基準の適用対象外となります。

一方で、もし企業が福利厚生のために特定のサウナ施設の個室を1年間、自社従業員専用として独占的に使用する契約を結んだ場合、これは「識別された資産(特定の個室)」を「実質的に支配」していると見なされ、リース契約に該当する可能性が高くなります。このように、契約の名称ではなく、その実態に基づいて慎重に判断することが求められます。

まとめ

本記事では、新リース会計基準の基本と財務諸表へのインパクト、そして経理担当者が取るべき実務対応について解説しました。新基準の最大のポイントは、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースについても、原則として「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表に計上しなければならない点です。これは、投資家が企業の財務実態をより正確に把握できるように、財務諸表の透明性を高めることを目的としています。

この変更により、企業の財務諸表には大きな影響が及びます。具体的には、資産と負債が同額増加するため自己資本比率が低下し、財務健全性の見え方が変わります。また、減価償却費と支払利息を計上する方式になるため、費用が前倒しで計上され、適用初年度の利益を圧迫する可能性があります。一方で、キャッシュフロー計算書上では、リース料支払額の元本返済部分が財務活動によるキャッシュフローに分類されるため、営業キャッシュフローは改善して見えるという特徴があります。

新基準への対応を円滑に進めるためには、計画的な準備が不可欠です。まずは社内に存在するすべてのリース契約を漏れなく洗い出し、リース期間やリース料を正確に把握することから始めましょう。その上で、使用権資産とリース負債の計算、会計システムへの反映、開示注記の準備などをロードマップに沿って進めていくことが重要です。

一方で、すべてのリース契約に厳密な処理が求められるわけではありません。実務上の負担を軽減するため、「短期リース」や「少額リース」については資産計上をしない簡便的な会計処理が認められています。自社の契約がこれらの要件に該当するかどうかを正しく判断することで、業務を効率化することが可能です。

新リース会計基準は一見複雑ですが、その本質と自社への影響を正しく理解し、早期に準備に着手することが、スムーズな移行の鍵となります。本記事が、その一助となれば幸いです。

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